音をコミックで表現した希有なゲンオン漫画
さそうあきらという人は、音楽を漫画の表現に昇華するのが巧い人。 ミュジコフィリア。5巻組です。
同じ作者で「神童」という天才少女ピアニストと音大生の交流を書いた漫画があります。
こちらは4巻組。
その中で音大の学祭でガムランを扱ったサークルの紹介がある。
つまり今までの西洋の文脈になかった東洋の音楽(の西洋音楽の立地からの再評価)という新しい視点が見えるか、と思ったら漫画は終わってしまいました。
ミュジコフィリアは、民族音楽そのものではないけれど、ある意味その部分を思いっきりテーマにした漫画だと思います。いわゆる現代音楽。音そのものを追求している方々です。
コンテンポラリー=同時代の音楽、という意味での現代音楽は時代とともに当然変遷しますので、ここで扱うようなものは便宜上カタカナ表記にしてみますw
ゲンダイオンガク
本編でも出てくるが、ゲンダイオンガクというのは「未聴」、今まで聞いたことない音(ひいてはそこから作られる音場も?)を評価する分野。
つまり、言い換えるなら今まで出てきた大抵の音楽を知らないと、「未聴」を評価できない、ことになる。
聴いたこと無いぞ!?という感覚を持つには、「なんだよ聴いたことあるよこんなの」という積み重ねがないとイケナイ。
つまり、どの分野でもそうだけどコンテクストを知らないとあかんと。
だから敷居が高い。
西洋の音楽史はだいたいグレゴリオ聖歌からはじまるが、そこから連綿と1000年ぐらい?続いてきた楽理とかオーケストレーションとか、西洋音楽理論みたいなものが積み重ねられてきた。
その理論は、20世紀にコルンゴルトなどを経て映画音楽に転用(ジョンウィリアムスとかね)、そしてバークリーメソッドとして商業音楽の、職業編曲家のブキ(武器)として使われるようになった。
もはや、十二音技法とか微分音とか無調とか、技法=テクニックのひとつとしてそのメソッドに組み込まれたりしてるわけですが、ガチなゲンオン界隈の人たちはさらにストイックにタコツボを攻めてらっしゃるわけです。
このコミックはそのガチな方々を扱っていますw
Sound of MUSIC
サウンドとミュージックは似ているようで違う。サウンドは鳴っている音そのもの。聞く(聞こえてくる)もの。hear。
ミュージックはそこに技法=アルス=人間の思惑が加わると思うわけ。聴くもの。listen。
雨が降っているときに雨粒が勝手に缶にあたってキンコン鳴っているのはサウンド。
雨粒の流れや缶を巧く配置して心地よく(リズムだけでも)構築したのがミュージック。
ゲンオンの場合、サウンドそのものが心地良い場合もあるし、リクツ先行で解説きいてああなるほど、となるものも少なくない。
解説きいても「はあそれで?」というのも当然少なくない、というか多いのでw、やはりゲンダイオンガクは敷居が高い。
アートとのつながり
そういう意味でゲンダイオンガクはコンセプチュアル・アートに一脈通じる。
トリエンナーレとかで、何かがおいてあるだけのインスタレーション作品とか見ますでしょう。
デュシャンの泉みたいなもので、レディメイド(大量生産された既製品)に新たな意味を付加させる。
例えば等間隔に並んでいる靴箱、みたいなのがあるとしても、
白白白赤白白白赤
とか一定の間隔に並んでいるとかならば、そこにはリズムが生まれるし、
実はこの赤には最近話題になった抑圧された民衆の闘争のリズムを表していて、とかコメントすれば、
まあ作品になっちゃうわけですw(言ったモノ勝ちですね)
単純に赤のリズムが愉しいね、というのは先のサウンドオブミュージックで言えば、
心地よい音だね=サウンドを愉しんでいるというわけです。
でもそのさらなる意味は、背景やそれまでの意味を知らないとミュージックとしては理解しえない。
もちろん、上記の靴箱の例のように、さらなる意味が「はあ、それで!?」のパターンもありますがw
プレイヤー主体
コンセプトを音に昇華するので、(自作)楽器や、演奏技法に精通している必要もあります。
つまりプレイヤーに相当依存するジャンルだと思われます。
図形楽譜なんかはある意味、創作をプレイヤーに丸投げだと思うわけですw
Classic
そしてなにより、クラシックのClassは階級の意味もある。特進クラスとかね。
簡単に言えば人生にヨユーのある人たちが連綿とつむいできたジャンルな訳です(言い切るw)
例えば産業革命で中産階級ができてヨユーが出てきた人が増えたから、カワイイあの子と連弾(ブラームスの連弾とか)したり、合唱したり(パート・ソングとか)、それで食っていけるから作曲家も作品を作る。
或いはいわゆる劇場での一般市民向け音楽のみのコンサート(いわゆる現代のコンサート)、の歴史だってそのころからでしょう。
それまではヨユーのある貴族とかの特権階級の宮廷、或いはサロンとかで(もっと前は教会で)西洋音楽は作られていた。
なのでそもそも教養を前提としてる。神話だの歴史だの、(そして演奏技法も)知っていて当然の人を対象に作られている。
それらをコンテクストとしてゲンダイオンガクは成り立っている。
ポスト・クラシカル
マックスリヒターとかエイナウディとかあのあたりの音楽をポスト・クラシカルとして分類する向きがある。
いわゆる対位法とか、楽劇上のなんとかのテーマ(モティーフ)とか、そういう理論=ミュージック的なのをすっとばして、まずはサウンドありき、で心地よい音(場)で魅了してる方々です。
19世紀ロマンぐらいまでのいわゆるクラシックの聴き方をしている方々からは「飽きる」の一言で一蹴されがちですが、どちらかというと能動的に聴く、より感じる音楽だなと思います。
言い切るとアレだけど、それっぽい映像やプロジェクションマッピングのような視覚要素とも抜群に相性が良い気はします。
(実際マックスリヒター初来日のすみだトリフォニーでは、普段のクラシックコンサートでは見ないような照明が使われていたような・・・)
おわりにw
なんだか脱線したけれども。そういう流れのあるゲンダイオンガク、を扱ったコミックです。
音大生主体の漫画ですが、創作の苦しみやおもしろさ、は音楽を超えて共通したものです。
むしろ、音楽や歴史知らなくても愉しめます。ちゃんとコンセプト部分は説明してくれるし、冒頭でも書いたけどこの人、音を絵にするのが抜群にセンスいいんです!
オススメ!